チェスキークルムロフにスタバ進出

チェコが世界に誇る世界遺産の街、チェスキークルムロフ。 赤屋根の街並みと石畳が広がる、絵本の中に迷い込んだような大好きな街なのですが……先日、あまりにも衝撃的な新店舗を見つけました。。。

なんと、あのチェスキークルムロフに「スターバックス」ができたのです。

それだけでも「ええっ、あの歴史ある街並みにスタバ……!?」と二度見レベルのニュースなのですが、驚くのはそこではありません。

その出店場所が、よりによって「昔からある地元のカフェの目の前」だというのです……!

「なにもそんな、地元のカフェの真向かいにドーンと建てなくても良くない!?」と思わずツッコミを入れてしまったのですが、私は仕事やプライベートでチェスキークルムロフに通い続けてもう20年になります。

ここ数年の街の変化には、ずっと切ない思いを抱いていました。

昔は、街の中に生活の息づかいがちゃんとありました。 地元のおじいちゃんおばあちゃんが通う薬局があり、眼鏡屋さんがあり、街の時計屋さんがあり、近所の人たちが集まる温かいローカルカフェがあったのです。

ところが、観光化の波とともにそういった「地元の人々のための店」はどんどん姿を消していきました。 代わりに増えたのは、スワロフスキーや高級宝石店、どこにでもある観光客向けの面白みのないお土産屋さんばかり。

街から「人の暮らし」が消え、まるで巨大なテーマパークのようになっていく寂しさを感じていた中での、今回の「地元カフェの目の前にスタバ」というニュース。まさに、この20年間の変化を象徴するような出来事でした。

☕️ 20年前には存在しなかった「アイスコーヒー」と持ち帰り文化

正直、私自身は「スタバのコーヒーなんぞ大して美味しくもないし、ただ高いだけ」と思っています(笑)。

ですが……暑い日に飲む「アイスコーヒー」だけは、地元の伝統的なカフェもちょっと負けてしまうかもしれない……と悔しく思う部分もあります。

そもそも私がチェコに来た20年前、この国には「コーヒーを持ち歩いて飲む(Take away)」という文化も、「アイスコーヒー」という概念すらほぼ存在しませんでした。

チェコの古い世代にとって、コーヒーといえば椅子に座り、ゆったり飲むもの、 我が家のお義母さんに至っては、未だに「アイスコーヒーの存在自体を拒否(冷たいコーヒーなんて絶対に認めない!)」という筋金入りの伝統派です(笑)。

そんな国に大手が持ち込んできた「氷たっぷりの冷たいトールサイズ」や「サクッと注文して飲みながら街歩き」というスタイルが、観光客や若い世代に爆発的にウケてしまったのも、悔しいけれど現実なんですよね。

じゃ、ちなみに、「チェコのアイスコーヒー(Ledová káva)」ってどんなものかご存じでしょうか?

日本の感覚で「キリッと冷えたブラックのアイスコーヒー」をイメージして地元のカフェで注文すると、ちょっと面白いカルチャーショックを受けることがあります。

出てくるのは、日本のひと昔前の純喫茶に出てくるような「コーヒーフロート風」のスタイルが主流なのです!

グラスには冷たいコーヒー(またはエスプレッソ)と一緒に、ドカーンと大きなバニラアイスクリームが一玉。その上にはこれでもかとモリモリのホイップクリームが乗せられ、仕上げにチョコソースがかかっていたりします。

日本のように「グラスいっぱいの角氷に冷たいブラックコーヒー」が入っているスタイルではなく、もはや飲み物というより完全に「甘い夏のデザート」。

大手チェーンが上陸する前のチェコでは、「冷たいコーヒー=アイスや生クリームを乗せた特別なデザート」として広がったため、昔ながらのカフェでは今でもこのレトロで愛らしいスタイルが愛されているのです。

スタバはなぜ既存カフェの「目の前」なのか?少し気になって調べてみました。

大資本がなぜそんな強気な場所に出店したのか調べてみると、そこには大手チェーンならではのたくましすぎる(そして世知辛い)事情がありました。

  1. 「人が集まる場所」をそのまま横取り(ドミナント戦略) すでに人が集まってカフェ文化が成立している場所のすぐ近くにわざと出店する手法。目の前のカフェが繁盛している=そこに人が集まる証明。さらに、そのカフェが満席で入れなかった観光客を「じゃあ目の前のスタバでいっか」と取り込む狙いもあります。

  2. 観光客の「安心感」需要 世界中から観光客が押し寄せるチェスキークルムロフ。ローカルなカフェの雰囲気は最高ですが、言葉に不安がある観光客や「確実にFree Wi-Fiと電源と綺麗なトイレが欲しい!」という層は、結局聞き覚えのあるスタバに流れてしまいがちです。

  3. 「古民家リノベーション」という莫大な費用の壁 チェスキークルムロフの歴史地区(ユネスコ世界遺産)は、そもそも新しい建物を建てることができず、空き物件自体がほぼありません。

    実は私自身、コロナの時にチェスキークルムロフに住んでいて、旦那とともに過去にチェスキークルムロフでカフェをオープンしようと計画し、図面まで引いたことがあります。 ですが、いざ施工直前という段階で壁にぶち当たりました。

    まず突きつけられたのが「電気容量(Amperáž)の壁」です。 元がお土産屋さんだったその物件は、一般的な家庭レベルの単相(230V)しか引き込まれておらず、業務用エスプレッソマシンやパン・菓子を焼くコンベクションオーブンを動かすための三相交流(400V)や高アンペアへの変更工事が必要でした。電力会社(ČEZなど)への申請手続きから引き込み工事まで、時間も費用も想像を絶する規模になります。

    さらに立ちはだかったのが「衛生局(Hygiena)の壁」です。 チェコの衛生局による飲食店舗の審査基準は非常に厳しく、客用トイレとスタッフ用トイレの完全分離や、車椅子対応、衛生配管の勾配指定などが細かく定められています。 物販店だったスペースを飲食店に変えるには、歴史ある建物の古い床をすべてひっぺがし、下水管から根本的に引き直すという大手術が必要でした……。

    最終的に、その莫大な工事費用を回収するために大家さんが提示する家賃を大幅に引き上げざるを得なくなり、泣く泣く出店を断念したという苦い経験があります。


つまり、世界遺産の古い建物で飲食店を出すには、こうした莫大なインフラ工事費用をポンと払える「圧倒的な資本力」が必要になります。その結果、資金力のある大手チェーンが確保できた数少ない場所が「既存のカフェの目の前」になってしまった……という構造的な理由もあるのです。

時代の流れや観光化の波は止められないのかもしれませんが、20年前のあの温かかったチェスキークルムロフを知っている身としては、やっぱり胸がキュッとなる複雑な気持ちになります。

だからこそ、チェスキークルムロフを訪れる際には、チェーン店や大型お土産店だけでなく、今も踏ん張って残ってくれている地元の素敵なお店やカフェに足を運んで、少しでも応援したいなと強く思います。



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